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岡山地方裁判所 昭和34年(む)26号 判決

被告人 真野徳一

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する収賄被告事件について、昭和三四年一月一三日岡山地方裁判所裁判官がなした保釈請求却下決定に対し、弁護人小脇芳一から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

被告人が昭和三三年一二月一七日、収賄被疑事実について、岡山地方裁判所裁判官の発した勾留状により勾留せられ、同三四年一月五日右事実について岡山地方裁判所に公訴を提起されたところ、弁護人からなされた同年一月六日附保釈請求に対し、同年一月一三日岡山地方裁判所裁判官が、右は刑事訴訟法第八九条第四号に該当し、なお勾留継続の必要があるとして、これを却下する旨の決定をしたことは、本件被告事件記録および勾留処分関係記録によつて明らかである。

ところで、弁護人の本件準抗告の理由の要旨は、被告人の逮捕ならびに勾留の理由である被疑事実は単一であるところ、検察官は被告人を逮捕して以来、起訴にいたるまで二二日間の長きにわたり、年末年始の休日もほとんどこれを廃してその取調にあたりしかるうえで犯罪の嫌疑あり、その証拠充分であるとの確信のもとにこれを起訴したものである。もつとも、被告人は逮捕以来犯罪事実を否認しているが、否認事件はすべて証拠隠滅の虞れがあるということはできない。したがつて本件保釈却下決定の理由である罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は存しない。次に検察官は、被告人が否認するところから、余罪を発見しようとして、本件勾留を利用しつつある形跡は捜査の全過程からみて顕著であるが余罪発見のため勾留を利用することは絶対に許されるべきではない。要するに、本件は、刑事訴訟法第八九条第四号の場合に該当せず、したがつて、権利保釈の許されるべき事案であると認められるのにかかわらず、右規定に該当するものとして本件保釈請求を却下した原決定は違法であるからこれを取消したうえ被告人の保釈を許す旨の決定を求める。というにある。

そこで考えるに、被告人に対する昭和三四年一月五日附起訴状記載の公訴事実(前記勾留の理由である収賄の被疑事実とは同一性がある)は、「被告人は、昭和二七年一月岡山県吉備上水道組合議会議員に就任し、同三一年一月再選、同議会の権限に属する上水道工事実施計画、工事の計画変更工事費に充当すべき起債の借入、請負契約の締結、工事代金の支払、立替工事金に対する利息の支払等の事項につき議決する職務を有するものであるところ、同組合においては、上水道工事を実施するにあたり、東京都千代田区丸の内二丁目六番地大平建設工業株式会社との間に、同二九年二月第一期、同三二年一二月第二期の各水道工事に関する請負契約を締結し、同会社をして右両工事を順次施工させたが、同会社水道部長宮崎豊が前記上水道第二期工事の請負契約の締結並びに右両工事の工事代金及び立替工事金に対する利息の支払等につき被告人より好意ある取扱を受けたことに対する謝礼並びに将来も同様の取扱ありたいとの意図のもとにその対償として供与するものであることの情を諒知しながら、同三三年四月七日頃、東京都文京区西片町旅館錦水において、同人から現金一〇万円の供与を受け、もつて自己の職務に関し賄賂を収受したものである。」というのであつて、岡山地方検察庁から取寄せた捜査記録のうち右宮崎豊の検察官に対する昭和三三年一二月二七日附供述調書によると、同人において、逐一詳細に右事実と同旨の供述をしているほか、前記賄賂となつた現金は昭和三三年四月七日頃前記会社水道工事部次長の今村広司に命じて同会社の吉備上水道工事資金のうちから捻出させたものである旨述べており、また、右今村広司の検察官に対する同年一二月二七日附供述調書によると、同人において、右宮崎の供述のとおりの現金の調達方法を講じ、これを同人に手渡した際、これを受取つた同人が被告人に面会するため部長室から出て行つた旨供述しているなどその他前記記録によつて認められる諸般の事情に徴すると、被告人が前記の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるのに、被告人は検察官の取調に対し、前記職務関係のほか、当時前記工事資金の起債の陳情のため他の同僚議員らと共に上京していたこと、および宿舎の前記錦水ホテルで右宮崎と面会したことなどの事実を認めているだけで前記の現金の授受についてはことさらに終始否認していることが窺われる。

しかして、右犯罪の種類、性質、態様などから考え、また前記記録によつて明らかなように、公判の審理は未だ開始されず、したがつて証拠調も終了していない本件においては、被告人の前記供述態度自体に徴し、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認めざるを得ない。してみると、本件は刑事訴訟法第八九条第四号に該当するわけであるから、いわゆる権利保釈の許されないことが明白であるが、他に裁量による保釈などを許すべき事情も認められないので右と同一の理由によつて本件保釈請求を却下した原決定は相当である。なお、適法に勾留されている被告人を仮に余罪捜査のため取調べたとしてもその違法でないことはもちろんである。したがつて、原決定の取消および保釈の許可を求める本件準抗告の申立は理由がないので刑事訴訟法第四三二条第四二六条第一項にしたがい主文のとおり決定する。

(裁判官 菅納新太郎 守安清 川端浩)

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